初診日の話~障害年金の申請では「病気が治った」は認められにくい(社会的治癒以外の話)~
今回も悩ましいテーマについて書いてみます。
しかしながら、タイトルがやたらと長いですが、社会的治癒ってなんのこっちゃ? という方もいらっしゃるでしょう。
今回はそのあたりのことは、あまり突っ込まずに、なるべくシンプルに解説します。
障害年金申請における初診日の重要性
そもそも、なぜ病気が治った云々の話を取り上げるのか? ということをご説明しますと、
ズバリ
病気が治っている、治っていない
という判断で、障害年金申請の最重要ポイントの一つである「初診日」が違ってくるからです。
年金の申請で「初診日が変わってしまう」ということは、申請に色々な影響を及ぼしますので、ここはきちんと押さえておく必要があるのです。
初診日変更による影響
では、どのような影響があるのか? ですが
① 初診日が変わることで、申請すべき年金の種類が変わってしまう可能性がある。
(例えば、障害厚生年金⇒障害基礎年金)
② 初診日が変わることで、障害年金を申請する資格がなくなる場合もある。
(年金の納付要件というものを満たさなくなった! ということも。)
③ 初診日が変わることで、せっかく書いてもらった診断書を書き直してもらう必要がある。
(余計にお金がかかるし、時間がかかってしまう。お医者さんが不機嫌になる。)
④ 病歴就労状況等申立書を書き直す必要がある。
などでしょうか。そんなに影響があるの? とびっくりされた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは現実です。
例を挙げると・・・
たとえ話から始めます。
障害年金を申請しようと考えているAさんがいらっしゃいます。
Aさんは15年前に糖尿病と診断され、内科を何度か受診しました。運動療法を行い、またきちんと服薬もし、しばらくすると血糖値も安定しました。
会社員として仕事が忙しかったAさんは、糖尿病は治ったと思い、内科の受診を止めてしまいました。
それから5年後。
会社員を辞め自営業者になっていたAさんは、普段から定期健康診断を受けていませんでした。しかし、たまたま受けた市の健診で「糖尿病」と診断され、病院を定期的に受診するようになりました。まじめに受診していましたが、糖尿病の合併症も現れ始め、Aさんは障害年金の申請を考えるようになりました。
この場合ですが・・・
Aさんが15年前に糖尿病と診断されたけど、その時は治ったから、初診日はその5年後(つまり10年前)と考えると、おそらく
初診日が違います
とされ、そのまま手続きを進めても、
不支給
になってしまう可能性が高いと思います。
糖尿病のような慢性疾患の場合、
「いったん治癒した後に再発した」
と認定されるか可能性は非常に低いと思います。そうすると、上記のように「初診日が違う」とされ、色々な影響を受けることになる。
お医者さんの方で医学的な見解に基づいて「最初の病気と後で発症した病気は明らかに異なる」との見解がないと、手続き上は「いったん治った」は認められないでしょう。
「初診日を特定することの難しさ」を自覚した上で、手続きを進めていただけたら幸いです。
今回のまとめ
それでは最後に今回の重要ポイントをまとめてみます。
① 慢性疾患では、「いったん治ったけれどその後再発した」という「個人的な見解」は、非常に認められにくい。
② もし医師が医学的な見地から「別の疾患だ」と証明してくれれば①の主張も認められやすいが、それがないと難しい。
③ 年金申請の手続きの途中で初診日が変わってしまうと、色々な影響が出る。
④ そのため、個人的な見解はあてにならないと考え、慎重に初診日を特定することが大事。
以上となります。今回の記事が少しでもお役に立てば幸いです。
お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
(社会保険労務士 海老澤亮)