てんかんで障害年金の申請をされる方へ
今回はてんかんで障害年金の申請をお考えの方へ書いてみます。てんかんは100人に1人の割合でかかるとされていて、患者さんの数も多いご病気です。また、脳梗塞の後遺症の症状としても出現することが多いです。ご参考になれば幸いです。
まずは「障害認定基準」を見てみる
まずはいつものように厚生労働省の「障害認定基準」を確認してみましょう。
C てんかん
(1) てんかん発作は、部分発作、全般発作、未分類てんかん発作などに分類されますが、具体的に出現する臨床症状は多彩です。
また、発作頻度に関しても、薬物療法によって完全に消失するものから、難治性てんかんと呼ばれる発作の抑制できないものまでさまざまです。
さらに、てんかん発作は、その重症度や発作頻度以外に、発作間欠期においても、それに起因するさまざまな程度の精神神経症状や認知障害などが、稀ならず出現することに留意する必要があります。
(2) 各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。
1級 十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが月に1回以上あり、かつ、常時の援助が必要なもの
2級 十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが年に2回以上、もしくは、C又はDが月に1回以上あり、かつ、日常生活が著しい制限を受けるもの
3級 十分な治療にかかわらず、てんかん性発作のA又はBが年に2回未満、もしくは、C又はDが月に1回未満あり、かつ、労働が制限を受けるもの
(注1) 発作のタイプは以下の通り
A: 意識障害を呈し、好況にそぐわない行為を示す発作
B: 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
C: 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
D: 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
⇒ 治療を行ってもてんかん発作が生じる場合は、主にその発作の強度、頻度により障害等級が認定されます。そのため、主治医先生に診断書を記載していただく際には、実際の発作の頻度、具体的な内容をお伝えする必要があります。(勿論、書面でお伝えした方がいいでしょう。)
(注2) てんかんは、発作と精神神経症状および認定障害が相まって出現することに留意が必要。また、精神神経症状および認知障害については、前記「B 症状性を含む器質性精神障害」に準じて認定すること。
⇒ 治療によりてんかん発作が出現しなくても、幻覚、妄想、異常行動等の精神症状が生じている場合は、別の認定基準をもとに認定されます。(下記にその基準を抜粋します。)
B 症状性を含む器質性精神障害
1級 高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度の精神神経症状が著明なため、常時の援助が必要なもの
2級 認知障害、人格変化、その他の精神神経症状が著明なため、日常生活が著しい制限を受けるもの
3級 1 認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの
2 認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの
障害手当金 認知障害のため、労働が制限を受けるもの
⇒ 大雑把に言って、精神症状のため常時の援助が必要な状態が1級、日常生活に大きな影響があり、他者の援助が必要不可欠な状態が2級、労働に制限を受ける場合が3級と言えるでしょうか。(簡単に書き過ぎていますが。)
ちょっと話がそれましたが、再びてんかんの「障害認定基準」に戻ります。
(3) てんかんの認定に当たっては、その発作の重症度(意識障害の有無、生命の危険性や社会生活での危険性の有無など)や発作頻度に加え、発作間欠期の精神神経症状や認知障害の結果、日常生活動作がどの程度損なわれ、そのためにどのような社会的不利益を被っているのかという、社会的活動能力の損減を重視した観点から認定します。
様々なタイプのてんかん発作が出現し、発作間欠期に精神神経症状や認知障害を有する場合には、治療および病状の経過、日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定します。
また、てんかんとその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定します。
⇒ 日常生活動作、社会的な不利益(社会的活動能力の損減)も発作の重症度に加えて、重視すると、日常生活能力を重視する障害年金らしい文言です。
⇒ てんかんの他に精神疾患がある場合は、別傷病としてではなく、症状をまとめて判断して認定されます。そのため診断書も、それらの症状を包括的に書いてもらう必要があります。
(4) てんかん発作については、抗てんかん薬の服用や、外科的治療によって抑制される場合にあっては、原則として認定の対象とならないものとします。
⇒ 服薬等で発作が起こらなければ、発作に関しては認定の対象外とされます。(これは他の精神疾患でも同様です。)
なお、てんかんは「精神障害ガイドライン」の対象傷病から除かれております。そのため、精神障害ガイドラインに関する記載は致しません。(以下、「精神の障害に係る等級判定ガイドラインより」引用)
第2 ガイドラインの適用
2 対象傷病 このガイドラインの対象とする傷病は、障害認定基準第3第1章第8節精神の障害に定める傷病とする。ただし「てんかん」については、てんかん発作の重症度や頻度等を踏まえた等級判定を行うことについて障害認定基準で規定していることから、このガイドラインの対象傷病から除く。
診断書・病歴就労状況等申立書について
さて、ここまで細々とした決まり事を見てまいりました。
ここからは、診断書を書いていただく際の注意点、病歴就労状況等申立書作成の際の注意点を見ていきます。(他のコラムでも書いていますが。)
① 診断書を記入いただく際は、日常生活の様子について書面で伝える。
障害年金の診断書を書いていただく際、医師に日常生活の様子を書面でお伝えしましょう。
このコラムでも何度も書いていますが、「精神の障害用」診断書の裏面、「日常生活能力の程度」欄の各項目(適切な食事、身辺の清潔保持、通院と服薬などの7項目)について、その趣旨に沿った具体的なエピソードを、箇条書きでもいいですから書いてお渡しすることをお勧めします。
特にてんかん発作が起こることも想定して、日常生活でも色々と制限があるでしょう。(例えば、高いところにのぼる、料理をしていて火傷をする危険性、車の運転など。)そういった制限も文書できちんとお伝えすることが大切です。
(弊事務所ではもうちょっと違った書面を作成していますが、せめて上記のような書類は作成しましょう。)
そうすれば、医師も日常生活が分かりますし、診断書作成の参考になると思います。ただ単に「年金が通るように書いて下さい」とお願いしても、お医者さんも困ると思いますし、このように書面でお伝えすることをお勧めします。
② 診断書⑩欄「障害の状態」 ア 現在の病状又は状態像 「Ⅵ 意識障害・てんかん」欄に、症状、発作のタイプ、頻度を記入してもらいましょう。ここが漏れてしまってはまずい。(最低限、そこは確認しましょう。)
③ 診断書を作成する医師は、必ずしも「精神の障害用」診断書を書きなれていない。
本来は「精神の障害用」診断書は、精神保健指定医又は精神科を標榜する医師に記入いただくことになっています。(下記に、診断書「記入上の注意」を抜粋しました。)
記入上の注意
1 この診断書は、傷病の性質上、原則、精神保健指定医又は精神科を標ぼうする医師に記入していただくことになっています。ただし、 てんかん、知的障害、発達障害、認知症、高次脳機能障害など診療科が多岐に分かれている疾患について、小児科、脳神経外科、神経 内科、リハビリテーション科、老年科などを専門とする医師が主治医となっている場合、これらの科の医師であっても、精神 ・ 神経 障害の診断又は治療に従事している医師であれば記入可能です。
しかし、ご覧のように「てんかん」は例外とされています。
ですので、「精神の障害用」診断書を書きなれていない医師が記入する場合もあります。でも、なるべくでしたら総合病院等を受診されていらっしゃるのなら、同じ病院の精神科の医師を受診し、診断書を書いてもらう方がいいかもしれません。(専門外の医師に記入いただくのは、私の個人的な経験上はお勧め致しません。)
その点は、十分医療機関とご相談された方がいいでしょう。
④ 病歴就労状況等申立書の書き方
障害年金の申請で、一般の方に「負担感」があるのが病歴就労状況等申立書です。
「でも、診断書が一番大事だっていうし、診断書さえきちんと書いてあれば問題ないんじゃないの?」
と思われるかもしれません。しかし、そうはいかない。
実際、ご家族が申請されて一度不支給になった方で、弊事務所でお手伝いする際、以前の申請書類を拝見しましたところ、診断書の内容は「1級相当」でしたが不支給になった事がありました。
申立書を簡単に書いてしますと、残念な結果になる事もあるので手を抜かずに作成しましょう。
でも、どうやって作成するか? 分かりません。
といわれるでしょう。
その場合は、診断書作成の際に医師にお渡しした参考資料をもとに作成することをお勧めします。申立書は単に治療歴等を淡々と時系列で書くのではなく、「日常生活がいかに困難か?」といったことを中心に、発病後から現在までを時系列で書いていきます。障害年金は日常生活がうまく送れない方を支援するものですので、繰り返しになりますが、「日常生活で困っていること」を中心に書きましょう。
⑤ 病歴就労状況等申立書にも、てんかん発作の頻度、強度をなるべく具体的に書く。
勿論、診断書でもてんかん発作の頻度、強度を書いていただく必要があります。しかし、この申立書にも、なるべく具体的な発作のエピソード等も盛り込みつつ、(どのような状況下で発作が起きるか? 発作が起きた場合、身体にどのような影響が出ているか? など。)その発作の頻度、強度を書きましょう。
20歳前障害も多いので、所得制限がある場合がある。
初診日が20歳前で、年金に加入していなかった場合は、障害年金の請求は「20歳前障害」になります。その場合、保険料を納めずに年金を受給する関係で、所得制限があります。
ある程度の所得がある場合のみ、半額支給停止、全額支給停止に該当します。(金額は扶養親族の数等でも変わります。ここでは割愛します。)
その点だけ頭の片隅に入れておいていただければと思います。
今回は長文になりました。一度「その1」としてアップした記事を結局、加筆訂正しました。少しでもお役に立てば幸いです。(社会保険労務士 海老澤亮)